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暑中特集/社会課題・業界課題に挑む/「外部管理者方式」で適格運営/管理組合理事・監事の担い手不足解消へ/マンション管理の新方式/「監視」から「対話」へ

暑中特集/社会課題・業界課題に挑む/「外部管理者方式」で適格運営/管理組合理事・監事の担い手不足解消へ/マンション管理の新方式/「監視」から「対話」へ

寄稿 明海大学不動産学部不動産学科教授 小杉学
  • 2024.08.08
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第三者管理

明海大学 不動産学部不動産学科教授 小杉学氏
2017年4月から日本マンション学会理事。専門分野は都市計画、マンション学。
理事長に代わって業務を行う
 新しいマンション管理方式である「外部管理者方式」が話題になっている。区分所有法が定める「管理者」は、全区分所有者を代理して管理を執行する管理組合の最高責任者である。多くの管理組合が採用している理事会方式では、区分所有者から選ばれた理事長が管理者となる。理事長は、総会や理事会の議長、組合員からの相談対応、管理業者や大規模修繕工事に関わる設計会社との各種調整などの業務を担う。外部管理者方式では、マンション管理士などの外部の専門家が管理者に就任し、これまで理事長が担っていた業務を担うことになる。

新方式が注目される背景
 外部管理者方式が注目されるようになった背景には、役員(理事・監事)の担い手不足がある。建物の老朽化と区分所有者・居住者の高齢化。これら「2つの老い」が進む高経年マンションでは、高齢化した区分所有者が役員を引き受けるには負担が大きい。外部管理者方式であれば、区分所有者が理事長になることはなく、専門家が理事長を担うため役員の負担も軽くなる。なにより専門家による的確な管理組合運営が期待できる。

急速に広まりつつある「管理業者管理者方式」
 そして現在、外部管理者方式のうち、新しいパターンである「管理業者管理者方式」が急速に広まりつつある。既存マンションへの導入だけではなく、新築マンションにおいて同方式を前提として分譲が行われる事例も増えている。
 同方式は2つの特徴を持つ。1つは、管理事務を受託する管理業者が、管理組合の管理者にも就任すること。管理業者が管理事務と管理者業務の両方を担うため、専門的知見に基づく機動的な管理が期待できる。しかしそれは管理組合の立場に立つべき管理者の管理業者が、管理者と同一の管理業者に管理を委託する状態をもたらす。これは民法が無効と定める「自己契約」に該当する。ただし、本人が許諾した場合は有効であるため、マンションでは総会で十分な説明のうえで承認を得れば有効と解される。
 また、管理者(管理業者)は自らと同一グループ会社など、特別な利害関係のある関連会社に大規模修繕工事を発注することが考えられる。この場合は民法が無効と定める「利益相反取引」に該当する。これも総会承認があれば有効と解される。
 もう一つの特徴は理事会の廃止。理事会のサポート業務が消滅するため、管理業者はフロントスタッフの不足をカバーすることができる。土曜日曜に時間をかけて開催される理事会のサポート業務は、少子化に伴い労働力が減少する管理業者にとって悩みの種だった。そして区分所有者は、役員を担う負担感や煩わしさを完全に払拭できる。役員の担い手不足の不安もなくなる。
 しかし、理事会の廃止は区分所有者から管理に関与する機会を奪うことになり、区分所有者の管理に対する関心と管理者に対する監督機能の低下が懸念される。総会では管理業者が作成した議案はもちろん、自己契約や利益相反取引までも、適切な検討がなされないまま承認されるようになると、区分所有者の意思から離れた不適切な管理や、外部専門家による独断専横的行為がなされる危険性が高まる。

ガイドライン作成
 このように管理業者管理者方式は、管理業者と区分所有者の双方にメリットを与えるが、区分所有者にはリスクも与える。そのため24年6月、国土交通省は「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を定め、留意事項をまとめている。同一管理業者であっても管理者業務と管理業務の担当者を分ける、アンケートの導入や管理者に意見を伝えることができる機関(管理評議会)の設置による独断専横的行為の排除、区分所有者や外部の専門家が担う監事による利益相反取引の監視強化など、充実した内容になっている。
 とはいえ、同方式を採用した管理組合では、多くの区分所有者は役員の負担や煩わしさからの解放を望んでいるはずである。評議委員会や監事を担おうとする者がどれだけいるのだろうか。管理業者がガイドラインの内容に沿って管理業者管理者方式を導入したとしても、一人一人の区分所有者に管理への関心や管理者を監督する意識が希薄であれば、結局のところ不適切な管理がなされるリスクを減らすことはできない。

新方式が必要
 このような状況と問題意識を踏まえて、筆者は今後増加が見込まれる高経年マンションに対応するため、新しいパターンの外部管理者方式が必要であると考えている。管理不全化を防ぎながら長命化させ、寿命が尽きた際には円滑な建て替えや建物の取壊しへと導く。これを素人の区分所有者が担う理事長が専門家の意見を聴きながら先導していくのは至難の業といえる。
 かといって管理業者管理者方式では、区分所有者の管理への関心が育たない限り不適切な管理がなされるリスクが常に存在する。管理業者が本当に終末まで責任をもって対応するとは限らない。
 区分所有者の負担軽減と管理者の担い手不足解消。管理業者が管理事務と管理者業務を担うことによる高度な管理。これらの管理業者管理者方式の利点を生かしつつ、管理業者が区分所有者の管理意識を育てることで、独断専横的行為や利益相反取引などの危険性をできる限り排除し、管理組合と管理業者が共同して高経年期と終末期を乗り越えていく。これを実現することはできないだろうか。

横浜市の取り組み
 これに挑戦しようとしているのが、横浜市住宅供給公社である。近年は「横浜市内に管理不全マンションをつくらない」をテーマに高経年マンションの再生支援に力を入れている。
 建物老朽化による修繕費の増加と区分所有者の高齢化が進む高経年マンションでは、「いまをしのげれば」と考えがちになり、必要最低限の大規模修繕工事に留まってしまうことがある。長期的・経営的視点に立脚した改修投資が行われないため、陳腐化が進み、管理に無関心な層が増え、管理不全化が進んでいく。負の連鎖から脱却するためには、区分所有者自身が所有する期間だけではなく、受け継ぐ次世代のことも想いながらその将来を誰かが考える必要がある。公社はその「誰か」になろうとしている。
 公社が提供準備を進める管理業者管理者方式の特徴は、理事会「存続」型であることと、「管理者2名体制」であること。公社は第1の管理者(外部管理者)を担い、区分所有者が第2の管理者(内部管理者)を担う。外部管理者は理事会からは独立した存在となる。内部管理者は理事会の理事長を担う。理事会は管理者を監視し、区分所有者の意向をまとめて管理者に伝える役割を担う。管理組合の取引は全て内部管理者が行う。これにより名実ともに利益相反取引の防止を「見える化」する。
 また、区分所有者の管理に対する関心を促すため、公社は外部管理者と理事会の対話を重視する方針を打ち出している。国交省のガイドラインが示す一方向的な「監視」では、外部管理者と管理組合の相互理解や信頼関係は生まれにくい。
 「監視ではなく対話」。ほどよい緊張感を互いに維持しながら、管理組合の伴走者として理事会との対話を続け、区分所有者の管理に対する関心を高めていく。相互理解や信頼関係が築かれることで、高経年期の難しい管理を共に乗り越えようとするものである。
 これが軌道に乗るまでには長い年月を必要とするだろう。それでも筆者は、信頼関係を基礎におく管理者管理方式が管理組合や社会から広く支持され、一般化する社会を創造したいと考えている。
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