
法改正・賃貸管理特集/阪神淡路大震災から30年/建物安全性強化促進へ/住宅向け制震ダンパーで対応/余震や複数回の揺れに備える/住友ゴム工業 松本 達治氏に聞く
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2025.04.23
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日本の建築は常に巨大地震との戦いだ。関東大震災から昨年の能登半島地震まで、震災が発生する度に一層の安全性の向上に向けて技術を磨いてきた。阪神淡路大震災から30年目となった今年、住宅の安全性向上のため4号特例が縮小されるなど、建物のさらなる安全性強化のための動きが見られる。住友ゴム工業執行役員で同社の制振事業を一から育て上げた技術者の松本達治氏に、一般住宅向け制震ダンパー開発の経緯と現在について話を聞いた。
一般住宅も制震へ
制震は装置を設置して地震の揺れを吸収・低減させ、建物の損傷を軽減する仕組みで、制震ダンパーは特殊なゴムなどを用いた制震装置だ。制震装置が地震の揺れを吸収し揺れが建物へ伝わるのを抑えるため、耐震よりも建物の損傷を軽減できる。当社の制震装置は新築木造戸建て住宅の場合1棟あたり30万円から(工事費別)と比較的安価に導入でき、さまざまな条件の住宅に設置可能だ。
耐震は建物の強度を高めて揺れに耐えることを目指す。施工は比較的簡単で安価だが、地震のエネルギーを直接受け止めるため、建物にダメージが残りやすく、繰り返しの地震に弱い。建築基準法は震度6強の地震に1回耐えられることを基準とし、この基準では巨大地震後の余震や複数回の激しい揺れには十分に対応できない。
免震は建物と地盤の間に免震装置を設置して地震の揺れを建物に伝えないようにする仕組みで、建物の揺れを極めて小さくすることができる。
しかし設置費用が高額で敷地に対し建物が大きく動くため、隣地との間に十分な空間の確保が必要なことや、地盤など条件が整わないと十分な効果が期待できない。都市部での適用や戸建て住宅への普及は難しい。
開発経緯
住友ゴムはタイヤの「ダンロップ」、ゴルフ用品の「スリクソン」で知られるゴムメーカー。当社は阪神淡路大震災での本社・神戸工場の被災を機に、制振技術の開発を本格化させた。阪神淡路大震災では建物の耐震性能の強化だけではなく、建物の損傷をできるだけ少なくし生活再建に要するまでの時間を短縮する「レリジエンス」という考え方が広まり、免震技術などの技術開発が進んだ。
制震ダンパーは85年に研究を開始した特殊な「高減衰ゴム」の力を利用している。この特殊なゴムには、タイヤ開発で培われたゴムを素早く温めてグリップ力を高める技術が応用され、地震による揺れのエネルギーが加わるとその運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。これにより、建物に伝わる揺れを小さくする。手のひらを合わせて擦ると温かくなる、これが運動エネルギーから熱エネルギーへの変換だ。
普及と展開
当時の戸建て住宅業界には制震技術が十分に確立されていなかった。住友ゴムは橋梁向けの制振技術は確立していたが、戸建て住宅分野は未知の領域だった。ミサワホームは地震対策としてビルで実績のあった免震技術の採用を検討したが、都市部での設置上の制約や高コストから導入を断念していた。両社は戸建て住宅向けの制震技術の共同研究を開始し、04年に戸建て住宅向け制震システム「MGEO(エムジオ)」を販売する。現在、ミサワホームでは平屋を除く全ての新築住宅に「エムジオ」を標準装備している。エムジオの開発・販売は住友ゴムにとっては当社の制震技術の普及に大きな役割を果たした。一方、経営難に陥っていたミサワホームにとっては業績回復に向けた強力な一手となった。当時のことを振り返ると、ミサワホームも経営的に難局を迎えていて、当社も阪神淡路大震災後のキャッシュが苦しく分社化を経験した厳しい時代だった。両社ともこの難局をどうやって脱しようかという時代だった。
寺社仏閣への普及も目指す
11年の東日本大震災では福島県にある当社の白河工場が被災した。この被災では「制震装置の普及」を使命に掲げ、地域工務店向けの汎用性の高い戸建て住宅用制震ユニット「MIRAIE(ミライエ)」を開発し、翌年に販売を開始した。コストは住宅価格の1%~2%程度に抑えることを目標とした。24年末時点で14万2000棟、旭化成ホームズ、住友林業といった大手ハウスメーカーも含めると約25万棟の住宅に設置している。ミライエは熊本地震相当の地震波に対して14回の耐久実験でも損傷が見られなかった。
そして17年に既存の戸建て住宅に設置できる制震ダンパー「MAMORY(マモリー)」を発売開始。価格は15万円から(工事費別)で、リフォームに使える低価格な設定にしている。
16年4月の震度7の揺れが2度発生した熊本地震では、当社の制震ダンパーが設置されていた建物(全119棟)で全半壊はゼロだった。この実績が評価され、甚大な被害を受けた熊本城の耐震改修工事では大天守、小天守の両方に当社の制振システムが採用された。
24年の能登半島地震では震度6弱以上のエリアにある当社の制震ダンパーを搭載した建物(全517棟)でも、全半壊はゼロだった。しかし、地域全体を見回せば、多くの建物が倒壊していた。私自身、現地調査を行った際に集落の中で残った数件の建物を調べると、当社のダンパーが入ってたというケースも少なくなかった。そこは顧客も喜んでもらえた。だが、建物が倒壊し昔なじみの人は集落からいなくなっている。お店や病院などの都市機能はなくなっている。地域のコミュニティの核となっていた神社仏閣は壊滅的な状況だった。ここに住んでいて本当に幸せなのか。ということは何度も感じ、病院、学校、寺社などの古い建物にも適用できる制振ダンパーの開発や設置に取り組み始めた。新築に比べると手間暇はかかるが、効率的な設置を目指して技術開発に取り組んでいる。
一般住宅も制震へ
制震は装置を設置して地震の揺れを吸収・低減させ、建物の損傷を軽減する仕組みで、制震ダンパーは特殊なゴムなどを用いた制震装置だ。制震装置が地震の揺れを吸収し揺れが建物へ伝わるのを抑えるため、耐震よりも建物の損傷を軽減できる。当社の制震装置は新築木造戸建て住宅の場合1棟あたり30万円から(工事費別)と比較的安価に導入でき、さまざまな条件の住宅に設置可能だ。
耐震は建物の強度を高めて揺れに耐えることを目指す。施工は比較的簡単で安価だが、地震のエネルギーを直接受け止めるため、建物にダメージが残りやすく、繰り返しの地震に弱い。建築基準法は震度6強の地震に1回耐えられることを基準とし、この基準では巨大地震後の余震や複数回の激しい揺れには十分に対応できない。
免震は建物と地盤の間に免震装置を設置して地震の揺れを建物に伝えないようにする仕組みで、建物の揺れを極めて小さくすることができる。
しかし設置費用が高額で敷地に対し建物が大きく動くため、隣地との間に十分な空間の確保が必要なことや、地盤など条件が整わないと十分な効果が期待できない。都市部での適用や戸建て住宅への普及は難しい。
開発経緯
住友ゴムはタイヤの「ダンロップ」、ゴルフ用品の「スリクソン」で知られるゴムメーカー。当社は阪神淡路大震災での本社・神戸工場の被災を機に、制振技術の開発を本格化させた。阪神淡路大震災では建物の耐震性能の強化だけではなく、建物の損傷をできるだけ少なくし生活再建に要するまでの時間を短縮する「レリジエンス」という考え方が広まり、免震技術などの技術開発が進んだ。
制震ダンパーは85年に研究を開始した特殊な「高減衰ゴム」の力を利用している。この特殊なゴムには、タイヤ開発で培われたゴムを素早く温めてグリップ力を高める技術が応用され、地震による揺れのエネルギーが加わるとその運動エネルギーを熱エネルギーに変換する。これにより、建物に伝わる揺れを小さくする。手のひらを合わせて擦ると温かくなる、これが運動エネルギーから熱エネルギーへの変換だ。
普及と展開
当時の戸建て住宅業界には制震技術が十分に確立されていなかった。住友ゴムは橋梁向けの制振技術は確立していたが、戸建て住宅分野は未知の領域だった。ミサワホームは地震対策としてビルで実績のあった免震技術の採用を検討したが、都市部での設置上の制約や高コストから導入を断念していた。両社は戸建て住宅向けの制震技術の共同研究を開始し、04年に戸建て住宅向け制震システム「MGEO(エムジオ)」を販売する。現在、ミサワホームでは平屋を除く全ての新築住宅に「エムジオ」を標準装備している。エムジオの開発・販売は住友ゴムにとっては当社の制震技術の普及に大きな役割を果たした。一方、経営難に陥っていたミサワホームにとっては業績回復に向けた強力な一手となった。当時のことを振り返ると、ミサワホームも経営的に難局を迎えていて、当社も阪神淡路大震災後のキャッシュが苦しく分社化を経験した厳しい時代だった。両社ともこの難局をどうやって脱しようかという時代だった。
寺社仏閣への普及も目指す
11年の東日本大震災では福島県にある当社の白河工場が被災した。この被災では「制震装置の普及」を使命に掲げ、地域工務店向けの汎用性の高い戸建て住宅用制震ユニット「MIRAIE(ミライエ)」を開発し、翌年に販売を開始した。コストは住宅価格の1%~2%程度に抑えることを目標とした。24年末時点で14万2000棟、旭化成ホームズ、住友林業といった大手ハウスメーカーも含めると約25万棟の住宅に設置している。ミライエは熊本地震相当の地震波に対して14回の耐久実験でも損傷が見られなかった。
そして17年に既存の戸建て住宅に設置できる制震ダンパー「MAMORY(マモリー)」を発売開始。価格は15万円から(工事費別)で、リフォームに使える低価格な設定にしている。
16年4月の震度7の揺れが2度発生した熊本地震では、当社の制震ダンパーが設置されていた建物(全119棟)で全半壊はゼロだった。この実績が評価され、甚大な被害を受けた熊本城の耐震改修工事では大天守、小天守の両方に当社の制振システムが採用された。
24年の能登半島地震では震度6弱以上のエリアにある当社の制震ダンパーを搭載した建物(全517棟)でも、全半壊はゼロだった。しかし、地域全体を見回せば、多くの建物が倒壊していた。私自身、現地調査を行った際に集落の中で残った数件の建物を調べると、当社のダンパーが入ってたというケースも少なくなかった。そこは顧客も喜んでもらえた。だが、建物が倒壊し昔なじみの人は集落からいなくなっている。お店や病院などの都市機能はなくなっている。地域のコミュニティの核となっていた神社仏閣は壊滅的な状況だった。ここに住んでいて本当に幸せなのか。ということは何度も感じ、病院、学校、寺社などの古い建物にも適用できる制振ダンパーの開発や設置に取り組み始めた。新築に比べると手間暇はかかるが、効率的な設置を目指して技術開発に取り組んでいる。
省エネ基準適合義務化適応の保険/性能不足の欠陥などで/木住協専務理事 加藤 永氏に聞く
日本木造住宅産業協会はこのほど、省エネ住宅プロテクション(建設工事業務特約付帯専門事業者賠償責任保険)の取り扱いを始めた。同協会専務理事の加藤永氏に話を聞いた。
25年4月からの省エネ基準適合義務化に対応した保険で、施主と約定した省エネ性能を充足しない施工を行ったことによってなされた損害賠償請求をカバーする。この保険は木住協を保険契約者とし、加入会員企業を被保険者とする団体保険制度で、加入会員企業の過失の有無は問わず省エネ性能を充足しない欠陥によって発生した「他人の経済的損失に対する損害賠償責任」「損害賠償責任の発生・拡大防止に必要・有益な措置に対する費用」を対象にする。
初期対応の段階では損害防止費用として事実確認・原因調査費用を支払う。やり直し工事の実施段階では自社でやり直し工事を行った場合、損害防止費用として超過勤務手当または臨時雇用費用、追加した資材・商品にかかる費用を支払う。他社でやり直し工事を行った場合は、他人の経済的損害への賠償金として施工代金を支払う。支払保険金は1請求あたりの支払限度額が500万円、保険期間中の支払限度額は1000万円となる。
日本木造住宅産業協会はこのほど、省エネ住宅プロテクション(建設工事業務特約付帯専門事業者賠償責任保険)の取り扱いを始めた。同協会専務理事の加藤永氏に話を聞いた。
25年4月からの省エネ基準適合義務化に対応した保険で、施主と約定した省エネ性能を充足しない施工を行ったことによってなされた損害賠償請求をカバーする。この保険は木住協を保険契約者とし、加入会員企業を被保険者とする団体保険制度で、加入会員企業の過失の有無は問わず省エネ性能を充足しない欠陥によって発生した「他人の経済的損失に対する損害賠償責任」「損害賠償責任の発生・拡大防止に必要・有益な措置に対する費用」を対象にする。
初期対応の段階では損害防止費用として事実確認・原因調査費用を支払う。やり直し工事の実施段階では自社でやり直し工事を行った場合、損害防止費用として超過勤務手当または臨時雇用費用、追加した資材・商品にかかる費用を支払う。他社でやり直し工事を行った場合は、他人の経済的損害への賠償金として施工代金を支払う。支払保険金は1請求あたりの支払限度額が500万円、保険期間中の支払限度額は1000万円となる。